第二章 ケステル共和国

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…台風みたいな奴だったな 1分に満たない展開に対し、俺は茫然としていた。 「あんたもギルドの奴だろ?…身分証明書を見せな」 しかし、穴の奥にいた男の声を聞いて、我に返る。 身分証明書…あの少年も使っていたから、旅人用のでいいのかな? 断られる事も考えながら、恐る恐る身分証明書を手渡す。 「通っていいぞ」 すると、あっさり了承してくれたために少し拍子抜けになっていた自分がいた。 中に入った途端、タキシードを着て変な仮面をした男が視界に入る。 「おい。ぐずぐずしてないで、早く着替えてこい」 そう言ったのと同時にタキシードと仮面を俺に押し付ける。 辺りを見回すと、何人かがひそひそ話をしている。あまり良い雰囲気じゃなさそうだ。 着替えた後、軽い説明を受けてわかった事は、自分が半強制的にやる事になったのは、これから始まる闇オークションの会場で飲み物を配ったりする、いわゆるアルバイトだ。アルバイトにギルドの人間を雇う事は秘密保持も兼ねているので、よく使われる手段である。 …それにしても、どさくさに紛れてとんでもない場所に入っちゃったな… 入口の所にはまた違う男が見張っているため、しばらく出ることは出来なさそうだ。 ミヤを助けなくてはいけないのに… しぶしぶ仮面をした客達に飲み物を配り始める。闇オークションということは、ここの客は金持ちな奴がほとんどだろう。飲み物を渡した後、バーの方に戻ると座席案内をしていたバイトの奴らが会話しているのが耳に入ってきた。 「今日は久しぶりに、人間の女が出品されるらしいぜ」 「へぇ…面白そうじゃねぇか」  女の出品…という事は、人身売買か 彼らの会話に耳を傾けながら、俺はそうだと直感する。 60年くらい昔には奴隷制度も健在だったケステル共和国だが、今はもう法律で禁止されているはずだ。俺が生まれ育ったレンフェンでもその制度はない。自分は旅人だから法に触れた行為は多少目をつぶれるけど、人身売買についてはあまりあっても良いとは思わない。こうして、少しもどかしい気持ちになりながら、闇オークションは始まる。
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