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口を塞がれて後ろの柱に引きずり込まれようとした際に反射的に相手の手を振りほどき、そいつの首筋に掌を寄せる。
「君は…!!」
「しっ!」
俺の口を塞いでいたのは、この空き家の地下に入る時に旅人用の身分証明書を渡してあげた少年―――――シフトだった。
彼は小声で言う。
「大丈夫。あのお姉さんはちゃんと助かる。だから、ここで待ってて…!」
「っ…!?」
どういう事か訊きたかったが、シフトは身軽な足取りでその場を離れていく。
硬いレバーが落ちたような音と共に、薄暗かった会場の照明が急に明るくなった。何が起きたのかと、参加者達がざわめく。
「静かにしてください!!!!」
シフトが客席の後ろから叫ぶ。
「我々は、ケステル共和国直属のギルド“アズ”の者です!!この会場はすでに、包囲されています!」
周りを見渡すと、アルバイトに扮していた男達が皆、銃や剣を持って会場内を取り囲んでいた。
「窃盗容疑及び違法な物品の売買!そして人民権の侵害により、城までご同行願います!!!!」
「ふざけるなぁっ!!」
それに反応した1人の用心棒らしい男が、シフトに向かって襲いかかってくる。
ナイフを振りかざす男に対し、彼は瞬時に対応した。腕を押さえつけ、自分より大柄な男の腹に一発の当て身が入る。
「がはっ…!!」
うめき声と共に、男は地面に倒れこんだ。
「尚…反抗する場合はこちらも正当防衛として少し痛い目にあってもらいますので、ご了承ください!」
シフトは、右手で硬いこぶしを作りながら、周囲にいる人間達に告げる。
…丁寧な口調で怖いよ、少年
笑顔で今みたいな台詞を銀髪の少年が言ったものだから、俺は内心で冷や汗をかいていた。
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