赤手児

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診察室に入るとそこにいた医者は昨日居酒屋で話しかけてきた老人だった。 「居酒屋で会う兄ちゃんじゃないか、今日はどうした」 「ひどい熱をだしまして、昨日は平気だったのに、急にこんな。なにかの病気でしょうか。」 酷い声でなんとか絞り出して聞くと、医者は急に神妙な顔になり 「昨日、帰りに女の子に会っただろ。」 何で知っているんだ、昨日の話は誰にもしていないし、あの時、あの場所に居たのは私たち二人だけだったはずだ。私は医者の言葉に息を飲んだ。 「どうしてですか、何故、そのことを。」 医者は一瞬考えるそぶりを見せ 「昨日、帰り際に俺が言ったこと覚えてるか」 昨日言われた事といえばサイカチの木のある神社の通りに気を付けろってことだけだ。そう考えていると矢継ぎ早に続けてきた 「あのサイカチの木にはな、でるんだよ。あまり悪さをする奴じゃないが、あいつに会うと次の日から熱病に侵される。一週間もすれば治るから、大丈夫、深刻な病気じゃないから安心しなさい。」 妖怪なんて信じていなかったが、あまりに真剣な顔で言うものなので。思わず信じてしまった。それにあんなに美しい少女が人間ではないと聞いたほうが納得できる。
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