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車を止めたのは、桐野のマンションの駐車場だ。
そのひとを愛するのなら、ホテルなんかじゃなく、自分の家がよかった。
助手席のドアを開けると、そこが自分の提案したホテルとかでないことをわかっている様子の宮原は、まだ不安そうな顔をしている。
「心配しなくていいから。ここは俺の家だ」
彼はあやすようにそう言って、宮原の細い身体を軽々と抱き上げた。
これからたくさん体力を使って貰わなくてはならないから、もうほんの少しの距離も歩かせたくない。
「君を抱くのなら、他の場所じゃなくて、どうしても家がよかったんだ」
俺の家の中に、君の存在を刻みつけたいから。
「桐野先生」
ぎゅっと首にしがみつかれる。
「先生、は止めないか?」
柊一でいい。
「俺も君を、渚って呼ぶから」
ナギを早く抱きたい。
耳許にそうそっと囁くと、宮原の白い頬が桜色に染まった。
羞恥を誤魔化そうとしているのか、饒舌に反論してきた。
「…先生、なんで俺が抱かれるほうって決めつけてるんですか?俺が先生を抱くのかもしれないのに」
「先生じゃなくて、柊一」
桐野は即訂正する。
そして、にっこり笑って言った。
「ナギが俺を抱くのは体力的に無理だから」
それに。
抱くより抱かれるほうが気持ちいいんだよ?
だから、どうせ経験するなら抱かれるほうにしときなさい。
「え……それって、先生、抱かれたこともあるんですか?」
瞳を真ん丸にした腕の中のひとに真面目にそう聞かれて、桐野は笑い出す。
「一般論だよ。残念ながら、抱かれたことはないから真実はわからないけどね」
だから、どのくらい気持ちいいか、後でちゃんと全部教えてね?
そう囁いて、頬に軽く唇を押し当てると、その桜色の頬が夕焼けの朱色になった。
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