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桐野総合病院は、大学病院ではない総合病院としては、都内でも有数の大病院である。 特にここ数年、院長の息子が外科医として勤務するようになってからの評判は鰻登りで、経営難に喘ぐ病院が多い昨今に珍しく、順調に黒字経営を続けている。 医師としての腕も、経営手腕も、院内をまとめる上司としても、後継ぎの「若先生」が非常に優れているおかげらしい。 その「若先生」こと桐野柊一は、今、難しい顔をして考え込んでいた。 「やっぱり、オペは無理だな」 彼が眺めているのは、とある患者の検査の画像。 何枚もあるそれらの画像を見て、眉間に皺を寄せたまま、首を横に振る。 まだ若い患者なのに。 いや、若い患者だからか。 これだけ見事に転移していたら、内科的治療でも根治どころか延命すら難しいだろう。 余命を数えなければならない状態だ。 自分の担当ではなかったが、その患者を彼は知っていた。
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