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一一ああ、そりゃこうなるよな。
恐らく、病院から直行してきたのだろう。妻が亡くなったというのに、市役所に駆けつけるなんて変わっている。
「離婚届ではなく、死亡届が必要になりますが……あの、大丈夫ですか?」
しっかりと答えたら、男の肩が震え始めた。
他の人の視線もあり、対応にどうしようか迷っていると年下の女性職員がこっそり声をかけてくる。
「あの。小幡さんそろそろ休憩ですよね? だったら、休憩する前に職員専用室にこの男の人、連れて行ってあげてください」
「……ああ、わかった」
この分だとすぐに泣き止むのは無理だろう。このままここで泣かれても迷惑なだけなので、渋々了承する。
まだ下を向いている男の背中を軽く押しながら、「別の場所に行きましょうか」と囁いた。
男は、ゆっくりと頷いた。
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