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「小幡さんは……結婚してるんですか?」
日永が玲司の左手薬指をちら、と見た。指輪があるのを確認してからそう言ったようだ。事実を言うべきなのか。だが、特段話したくないというわけでもないのでいいか、と思った。
玲司は指輪を触りながら、苦笑して答える。
「まあ、結婚している……というか、妻を失いましたね。四年前くらいに、事故で」
「……え」
「ほら。指輪が二つあるでしょう? 下が俺ので、上が妻のです。どうしても手放したくなくて。あと、妻が肌身離さずつけていたネックレスも俺がつけてます」
「……小幡さんも……」
日永はかなり驚いたのか、言葉を失っていた。これもなにかの縁だ。そう思い、玲司は麻友のことを話した。
「二人で駅のホームにいたんです。それで、喋ってたんですけど少しだけ間が空いちゃって。電車がもう少しで来るって時に妻……麻友が線路の上に自分から落ちて行ったんですよ。腕を引っ張ろうとしたんですけど、間に合わなくて。……目の前で」
多少声が震えたものの、なんとか言えた。日永の顔を伺うと、真顔で玲司のことを見つめていた。
整っている顔は甘いマスクをしている。スッと通った鼻梁に、大きく切れ長で二重の瞳が玲司を見つめる。色気溢れる唇はかさつきもなく、顎はシャープで肌も綺麗だった。
互いに見つめ合っていると、今度は日永が話し始めた。
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