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「……俺、さっきまで病院にいたんですけど。妻の最期を見届けていたんです。最期まで沙耶香……あっ、妻の名前です。沙耶香は、亡くなる前まで、不謹慎ですけど……綺麗で」
日永が目頭を押さえた。「すみません」と言ってから静かに涙を流す。泣き虫だな、というより本当に沙耶香のことが好きなんだな、という印象の方が強く感じた。
「……俺のことは気にせずに。泣きたいだけ泣いていいんですよ」
玲司は、ポケットに入っていたハンカチを日永に渡す。日永は無言で受け取り、丁寧に目に当てた。
日永が泣き止むまで、玲司は視線をずらしていた。くちびるを結んだその様子は、どこか色気があることに本人は気づいていない。
日永が泣いている間、玲司はふと考える。
四年前は辛かったけど、今は四年前の時まで辛くない。寧ろ、前に進んで行っている。
玲司は、口を開けた。
「今から言うのは独り言ですから。返事しないで下さいね」
「……」
日永が頷くのを確認してから、玲司は言葉を発する。
「四年前、俺は急に世界が色褪せたように感じたんです。今までは輝いて見えたのに、大切な人を一人失っただけでこんなにも変わるのかと、驚いたものです」
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