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コーヒーを啜りながら、ため息を吐く。どうして、こんなに悩まなければいけないのかわからない。
遺書に書いてある言葉を思い出す。
遺書には『私のことは気にしないで、好きになった人と幸せになってね』と書いてあった。勿論それ以外に書いてあったことも沢山あるが、その言葉だけは心にいつまでも突っかかる。
麻友のことを気にしないことなんてできるはずがない、と当時は思ったが、今思えばそれは麻友の願いでもあるのだ。
だったら、自分は恋をするべきなのではないだろうかと思う。
でも、本当に人を好きになれるのだろうか、ということが疑問なのだ。
恋をしたくないというわけでもないし、だからと言って恋をしたいというわけでもない。今まで、好きになった人ができればいいや、くらいの軽い気持ちだったのだが、いざそういう事態に直面すると焦っている自分がいる。
麻友以上に好きになれる人間はいないと思っていたが、広い世の中だ。これから何十年と生きていく中で、一人くらい本気で好きになった人間がいてもおかしくないのかもしれない。
それが、日永だという可能性は。
一一さすがにねえだろ。相手は男だぞ。それに、ノンケ。
玲司のことを抱けると言っていたが、それはただの強がりなのかもしれない。いや、日永は強がりでセックスできると言う人間なのだろうか。
今考えるべきことはそれではないだろう、と玲司は思う。一番考えるべきことは峰旗のことなのだ。日永のことは頭の片隅に追いやらなければいけないのに。
どうして、日永の顔が頭に浮かぶのだろうか。
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