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この男は、そういうことで頭がいっぱいなんだな。
玲司は当然キスすることなくその手を振り払う。案外力弱く宙に浮いた手は、すぐに重力に従順になり下へぶらりと垂れ下がった。
「そういうことを言わないでくれ……これ以上……俺を失望させないで」
顔を見たら泣いてしまいそうで、俯きながらそう言った。そして、玲司は立ち去っていく。
一回だけ振り向きそうになったが、そのまま下を向いて歩く。すると、聞こえるはずがない声が聞こえた。
「……玲司さん」
今、一番会いたかった男。
この男になら、抱かれてもいいと思っている。その、相手は。
「紫麻……」
日永が柔らかく穏やかな笑みを浮かべて立っている。玲司は、我を忘れて日永に抱きついた。
すると、日永が力強く抱きしめてくれて、近くに停められた日永の車の助手席に乗せられる。
日永は、なにも言わずに車を発進させた。
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