94人が本棚に入れています
本棚に追加
都内の警察署内にある霊安室に連れてこられた。真っ白い布の下は膨らんでいて、死体があることを意味していた。
ゆっくりと。ゆっくりと男は布を捲っていく。
現れたのは、本当に妻なのかわからないくらいぐちゃぐちゃな物体だった。辛うじて判ったのは、愛する顔のみ。真ん中の方を見ると、男がプレゼントした結婚指輪が無残にも血で汚れていた。
その場にへたり込む。
どうして、逝ってしまったのか。置いていったのか。
愛する人を想いながら、男は泣いた。
そして、決心した。
妻の代わりに生きようと。
妻はいつも言っていた。『わたしが死んでも、ずっと恋をしてね』と。
そんなことできるはずがない。
妻以外に愛せる人間なんていない一一そう言おうとしたも、その時はそれを言わなかった。
触ってもいいか許可を得てから、妻の指に嵌められた指輪をゆっくりと取る。指輪を触った右手の親指と人差し指が血で汚れた。
次に、妻の首元にあるチェーンを取ろうとする。
中々取れないでいると、警察官が代わりに取ってくれた。
礼を言ってから受け取り、持っていたハンカチで血を拭う。ハンカチには、血がべったりとついた。
最初のコメントを投稿しよう!