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「……おめでとうございます」
婚姻届の紙を受け取る。
笑顔で祝福の言葉を贈ると、若い男女は嬉しそうに互いに顔を見合わせる。その様子は初々しく、微笑ましいものだった。
市役所職員である小幡玲司は、数年前に事故で妻を失った。結婚して僅か四ヶ月だった。
玲司の左手薬指には、指輪が二つ光っている。玲司のものと、前妻一一麻友のものだった。
麻友のお腹には、命が宿っていた。
あんなにも嬉しそうに笑っていたのに、どうして。
そんな思いが玲司の胸に何年も居座る。玲司は二十八歳で、麻友を失って四年が経っていた。
霊安室で見た麻友の顔は永遠に忘れない。それは衝撃で、信じ難いものだったから。
麻友以上に愛せる女性なんていないし、二度と恋なんてしたくない。それほどに、麻友は玲司にとって愛してやまない、愛しい存在だった。
友人からは美男美女カップルと囃し立てられたこともあった。麻友は美人で、高校のミスコンテストで優勝したこともあるくらいだった。玲司は高校生の頃に麻友と出逢い、その年のミスターコンテストで優勝した。
玲司は麻友のことを愛していたし、麻友も玲司のことを愛していた。毎日のように「好き」と言ってくれた。
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