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その男は入ってくるなり窓口のカウンターに手を置き、息を整えている。
一一なんだ、こいつ。
若干引き気味になりながらも、なんとか対応しようと笑顔を取り繕う。
「……えっと。どうされましたか?」
そう声をかけると、ゆっくりとその男が顔を上げる。
茶髪の髪がサラっと動き、玲司を見据える。
「ぇっ……!?」
玲司はぎょっとした。
何故なら、その男は泣いていた。
どうしようか、と迷っていると男が口を開く。
「……妻が……」
「……はい?」
「妻が病死した場合、離婚届は必要ですか……?」
妻。
その言葉を聞いて、玲司は男の左手薬指を確認する。スラリと長い指には、二つの指輪が光っていた。
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