まじない

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 ある日のことだった。  おれは裏切った仲間から逃げている最中、山に入り込んだ。  土砂を積んだような足元の悪い上り坂を息を切らして這い上がり、腰を覆うほどの下草を掻き分けて、山の奥深くへと入っていった。  繁みの中をどれくらい進んだだろうか。やがて追手の気配は消え去り、逃げ切ったと覚った。  とたんに愉快になり、おれはげらげらと笑った。一通り笑うと、息がきれて(くさむら)に屈みこんだ。  頭がくらくらする。  湿った地面にぼたりぼたりと血が滴り落ちた。肘から先のない右腕を掴む。きつく縛っているにもかかわらず溢れるほどに血が滴った。  走ったせいだ。  拍動と共に身体を(めぐ)るはずの血が、切断面から湯水(ゆみず)のように流れ出ていた。
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