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おれは心底ほっとした。屋根の下で休めるなんてついている。のろのろと叢を出て家屋に向かった。
近くで見ると家と言うのもおこがましい、板を打ち付けただけの粗末な掘っ立て小屋だった。
腐ったような黒木戸に、そっと耳を当ててみる。何の音もなく、気配も感じられなかった。
そもそも何が居ようとかまわない。おれはがらりと木戸を引いた。
花が腐ったような甘ったるい腐臭が鼻を突いた。
灯りもない仄暗い闇の中で、夫婦と童が二人、土を突き固めただけの土間に筵を敷いてその上に座っていた。
おれは驚いた。人が居るとは思わなかったからだ。
夫婦は緩慢に顔を上げると、揃って塗り潰したような目をおれに向けてきた。
そのうろの如き双眸は、おれのなかの邪悪な何かを突いた。身体の奥に居座るくろいものが頭を擡げる。
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