まじない

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 おれは土足で(むしろ)を踏むと、男と向かい合った。男は脅えるでもなく何処(どこ)か焦点の合っていない目でおれを見ていた。その顔を拳で殴った。  熟れ腐った西瓜(すいか)を殴ったような、べこりとした妙な感触だった。  男は(むしろ)の上にぐしゃりと崩れた。鼻、口、目、耳、顔の全ての穴から粘質の血がどろどろと流れ、筵に黒い染みを広げていった。  男は死んだようだった。あまりにもあっけなく、おれはしばし呆然と立ちすくんだ。  続いて女を見た。女は骨の形が判るほどに瘠せていて、髪は(まば)らでところどころ頭皮が見えていた。  女は死んだ男を(しら)けた顔で眺めている。そのさまが勘にさわり、おれは女の腕を掴んだ。途端、掴んだ皮膚が、ずるり、と剥けた。  おれは仰天して手を離した。  女は表情を変えず、腕に目を遣った。そして、ぐずぐずになった皮膚を、もう一方の枯れ枝のような手で、粘土を(なら)すように(こす)った。
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