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この女は病気だと思った。
皮膚に触れぬよう頭髪を掴み上げた。その途端、一掴みの髪はぷつぷつと抜けた。表れた青白い頭皮の毛穴から、血がじわじわと滲み出てくる。
おれは咄嗟に手に残された髪を振り払った。痩せた黒髪がはらはらと女の膝元に散った。
女の表情は変わらない。
頭皮から滲んだ血が、額を伝い目に入り、目尻から赤い涙のように顎に伝った。
ふいに女の鼻腔から血がつうと流れ落ちた。続いて目、口角からどろりと血が流れ、もったりと膚を伝っていった。赤黒い滴りは顎から粘る糸をひいて筵を汚してゆく。
あまりのようすに、おれは凍りついたようにそれを見つめていた。その時、ふと裸足に生温さを感じた。
下を見やると、足元に血溜りが出来ていた。女の下穿きから染み出ている血だった。
感染る、そう思った瞬間、女が赤い飛沫を振り撒きながら、筵の上に音を立てて倒れた。おれは弾かれたように飛び退いた。土間に足裏を擦り付けて懸命に血を拭う。
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