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思えばあの日から、私にとってしおりちゃんはただの小さな子どもではなくなってしまっていた。それがどこかおかしいものであることはわかっているつもりだった。
けど、彼女の親――しおりちゃんの口からは「ママ」だけが聞こえてくる――が捜索願を出しているのかというと、そういうわけではない。街中でよく見る捜索願だとかそういうものに『さかもと しおり』と読める名前の子はなかった。
だったら、いいんじゃないの?
私は、別にこの子に酷いことをしようとしているわけではないし、そもそもそんな邪な気持ちでいる人のことを軽蔑してもいる。
そういう輩と、私は違う。私がしおりちゃんと一緒にいるのは、彼女からそう求められたから。彼女が求めて助けに答えたから。それに、私は彼女に邪な欲望を押し付けようとしているわけではない。実の家族からは得られない愛情を与えたい。
よく、「子どもを愛していない親はいない」と言う人がいる。
それは間違ってはいないのかも知れない。
けど、それは「望んで子どもを宿した親なら」ということ。あの人はそうではなかった。そのときの恋人にとっても、あの人にとっても、私の存在は予定外だったらしい。それは事あるごとに言われてきた。
『あんたは、いるだけで私に迷惑をかけているの。だから、いつもごめんなさいの気持ちでいなきゃ駄目だからね』
今なら、そんなわけないと言えたかも知れない。
けど、当時の私にはあの人が全てだった。あの人の判断基準が私の価値観だったし、あの人の教えてくれることが私の知れる全てだった。だから、自然と自分が迷惑な存在なのだと思うようになっていた。
もしかしたら、まだ間に合うかも知れない。
しおりちゃんには、そんな風に生きていってほしくない。そうならないように、私だったらできる。同じ痛みを抱えているはずの私だったら、きっと……。ベッドで横になりながら考え事をしていたらしおりちゃんが背中に抱きついてきた。
「お姉さん、どうしたの?」
「ん、ううん、なんでもないよ」
なんでもない。
この温もりが続いてくれたら、きっとなんでもないから。もう少しだけ、このままでいたい。たとえ、赦されないことをしていたとしても。
いもしない神様に、そんなことを祈りたくなった。
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