3人が本棚に入れています
本棚に追加
それを感じたのは、昼休みになるちょっと前くらいだった。
「なんか、頭痛いかも……」
頭痛くらいならたまにあるし、まぁ大したことではないと思うんだけど、それにしてもなんだかおかしい。なんなら、ちょっと頭もフラフラしている。ちょっとだけ早引けして帰ろうかな……とも思ったけど、そんなのがこの仕事場で通用するわけがない。
客商売なんだから、風邪とか伝染しちゃったらよくないんじゃないかとも思うけど、たぶんそれを口にすると「じゃあ辞める?」と言われてしまうのが目に見えている。今の私が安定して収入を得るには今の仕事場を辞めたくはないし……。
だから、ちょっとだけ。
ほんのちょっとだけ、無理をした。
そのせいで心も身体もしんどい状況に追い込まれて、もうどこかへ逃げ出したくなる状況。いろんなことを言われて、いろんなことをして。されて。
だから、もうどうしようもない状態だった。
「ただいま~」
「お姉さん、おかえり!」
しおりちゃんの嬉しそうな声も、ちょっとだけ頭にズキズキと響いてくる。更にそんなときに飛び込んできた言葉が。
「おつかれさま! あのね、お姉さんいつもつかれてるから、今日ね、ラーメンつくったの! おゆとかいれたばっかりだから、まだあったかいよ?」
嬉しそうな、ちょっと誇らしげなしおりちゃんの顔。
きっと私が褒めてくれるって、喜んでくれるって確信したような顔。
「お湯、使ったの?」
でも私には、それに答えられる余裕がなかった。だって、え、嘘でしょ?
そんな私の雰囲気を察したのだろう、すぐに笑顔を曇らせて「う、うん」と返事をしてくれたしおりちゃん。でも、そういうことじゃないでしょ?
「お湯なんて使ったら危ないでしょ!? それに、ガスの元栓も開けたってことだよね、なんでそんなことしたの? 危ないじゃない、そんなことしたら! お湯なんて使ったら火傷したりっ、脚とか顔にかかったらどうするの!?」
「…………っ、」
「ねぇ、どうするのって訊いてるの! あぁ、もう!」
「ひぅっ!?」
しおりちゃんは、まだ小さいんだから。
火の扱いなんてさせられない。万が一火がどこかに燃え移って、火事でも起きたらどうするの? しおりちゃんひとりじゃ逃げられないでしょ……!?
「ごめんなさい……」
背中に投げかけられたしおりちゃんの声は、震えていた。
最初のコメントを投稿しよう!