差した影の暗さに

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 しおりちゃんがカップラーメンを作ったことを誇らしげに教えてくれたあの日から、少しだけしおりちゃんとの接し方が変わった。  より正確に言うなら、しおりちゃんから私に対する接し方が、だけど。なんというか、妙に慎重な接し方になってしまっていた。その理由はもちろん、わかっている。たぶん――いや、ほぼ間違いなく、私が勝手にお湯を使ったしおりちゃんを怒ってしまったことだ。  あの日、もちろんすぐに怒り過ぎたことを謝って、怒った理由をもう一度、優しく伝えた。  だってお湯を使って掛かったら、本当に危ない。  一生残る火傷の痕がついてしまうかも知れないし、もしかしたらそれだけじゃ済まないかもしれない。昔の有名なお医者さんも、小さい頃に大火傷をしたことで手が不自由になっていたという。もし、しおりちゃんがそんなことになったら……?  想像しただけで胸が掻き毟られる思いだ。  だからつい言い方がきつくなってしまった――それだけだったのに、あれからしおりちゃんは私の顔を見るだけで少し怯えた顔をするようになってしまった。 「……、お、おかえり!」 「今日は……、えっと、する?」 「あの、一緒にお風呂……、入ってもいい?」  なんでもいちいち、私に確認をとるようになってきた。それこそ、私の許可なんかなくても自分で考えてできるようなことも。なんなら、できていたことまで。  なんで?  どうして、そんなことをするの?  当て付けなの? 私がちょっと言い過ぎたから? 確かに怖い思いをさせたかも知れないけど、それでも、それはしおりちゃんを想ってのことだったのに……! 「しおりちゃん、そんなに私に訊かなくても大丈夫だよ?」 「えっ、あ、あの、えっと、ご、ごめんなさい……!」  どうして?  どうしてそんなに怯えるの?  ……、心が軋みそうになる。  私はしおりちゃんに危なくないように、安全に暮らしていてほしいだけなのに! 「大丈夫だって言ってるよね?」 「え、あ、ごめ、」 「だからっ、それを……っ!」  もしそこでしおりちゃんが泣き出しているのに気付かなければ、たぶん私は叫び続けてしまっていたと思う。 「あ、あの、ごめん、しおりちゃん! 怒ったんじゃないの! 謝らなくていいよって言いたかっただけなの! あの、だからもう泣かないで? ね、ね?」  それが、ここ最近の私たちの日常だ。
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