差した影の暗さに

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 今日は久しぶりの休みだったから、しおりちゃんとふたりで出かけることにした。寒くないようにたくさん服を着せて、迷子にならないように一緒に歩こう、と手を繋いで。 「お姉さん、きょうはどこ行くの?」 「今日は、一緒にケーキとか食べに行こうか」 「けーき?」  しおりちゃんが、小さく首を傾げる。……どうやら、ケーキを食べたことがないらしい。どんなものか想像できなさそうにしている彼女の姿に少し昔の自分が重なったような気がして、胸が締め付けられるように切なくなる。 『別にいらないでしょ? いらないよね? ほしくないよね』  質問の皮を被った決定(、、)。  あの人が『いらない』と言えば、それが私の意見。私が内心でどう思っていようとそれは特に関係なくて、私の意思は全部あの人の都合で決められていた。そんな思いを、しおりちゃんにはさせたくない。  この子には、私の分まで笑って過ごしていてほしい。  だから、今日はいろんな所に連れて行こう。  私が彼女くらいの年頃に見られなかったもの、行けなかったところ、食べられなかったもの、そういうもの全部、しおりちゃんには味わってほしい。  最近彼女を見ていると感じてしまう苛立ちも、今日はなしにしたい。  たくさんのお店を回って、名物らしいクリームたい焼きとかクレープとか、あとは有名なパティスリーのケーキもたくさん食べた。  しおりちゃんは、顔にべったりクリームをつけながら「おいしい、おいしい」って言い続けている。そんな姿が愛らしくて、つい頬が緩んでしまう。  こんなに可愛い子が、私のことを慕ってくれているんだと思うと、幸せな一方でなんだか申し訳なくなっちゃうな……。 「あれ、沙希(さき)ちゃん?」 「――――っ!?」  不意にかけられた声。  人違いだろうからと受け流そうとした声に対するしおりちゃんの反応は、はたから見ていた私が怖くなるくらいのものだった。
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