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「し、しおりちゃん……?」
「えっ、あ、人違いでしたか!? あ、ごめんなさい。最近いなくなったクラスの子に似てて、失礼しました!」
固まったようになってしまったしおりちゃんに声をかけると、それで女の子の方も驚いたような顔をして、すぐにその場から離れていってしまった。
なんだったんだろう?
そう思いながらも、気を取り直して楽しもうとはしたけど、それでもしおりちゃんの様子はどこか浮かないものになってしまっていて。
……せっかくの時間に水を差されちゃったな。
「帰ろっか」
「えっ、」
「もうちょっとお外がいい?」
「う、うん。だって、お姉さん、わたしが楽しいところばっかりつれてきてくれてるもん。行きたいところ、今度はわたしがつきあうよ?」
そっか、しおりちゃんは、私がしおりちゃんに気を遣っている――遠慮していると思ってたんだ。その感覚には覚えがある。私だって、私の好きなところだけ回っていいなんて言われてしまったら、その裏を考えてしまう。
自分のための時間に慣れてない――そういう気持ちは、私にもわかるから。
「大丈夫だよ、しおりちゃん」
「え、」
「私はね、今日はしおりちゃんにいろんな楽しいところを見せたかったの。最近仕事ばっかりだったし、その……、私も寂しかったから、今日はしおりちゃんの行きたくなるようなところを探しに来てたんだよ?」
ちゃんと伝わるかはわからなかったけど、それでも、しおりちゃんが気を使って申し訳なく思うようなことは何もないんだっていうことを伝えたくて。
こんなとき、私自身のボキャブラリーの少なさとか、知らないことの多さとかが恨めしくなる。こんな風にこの子を不安にするようなこともなくしていきたいのに。
けれど。
「そうだったんだ。ありがとう、お姉さん」
しおりちゃんは、笑顔ひとつで私のそんな思いを晴らしてくれるんだ。その笑顔を、ずっと守っていきたい。そう思った。
でも、少しだけ気になることも、ある。
どうしてあのとき、しおりちゃんはすぐに人違いだって言わなかったんだろう? ただびっくりしただけだとは思うけど……ね。
もやもやする気持ちは、いっそ夕風にさらわれてしまえばいいと思った。
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