雨夜に、あなたを知って。

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 ガチャン!  つまみを回す様式の、旧式のガス釜で沸かしたお風呂。浴槽から出てきた蒸気で浴室が暖まったタイミングで、しおりちゃんを連れて入った。それから湯加減のちょうどよくなった浴槽に一緒に入る。 「あったかい……」 「そう?」  沸かしたお風呂に入れば、普通に温かい。別に、それはなにも特別なことではないはずなのに、それに感動したような表情を浮かべるしおりちゃんの姿に、また胸を痛めながら。改めて彼女の小さな身体を見つめる。  小さい――そう言うと、なんだか小柄な印象がある。けれど、しおりちゃんの小さい(、、、)は単に小柄だというだけではない。頼りなくて、心細くなる、そんな小ささだった。栄養が行き届いていないことが窺えるその痩せたお腹にはあばら骨が浮き出ていて、その所々に青黒い痣のようなものが見えた。 「――――、」 「……見ちゃダメ」 「あ、ごめん」  私の視線に気付いたようで、少し後ろに下がりながら傷のあるお腹や胸を隠すしおりちゃん。もしかしたら、傷付けてしまったかも知れない。 「わたし、キズだらけで、おかしいから……。あんまり見ないで」 「しおりちゃん……」 「――――、」  涙を目に溜めて俯くその姿に、何かかける言葉がないか――そう思っていたら、咄嗟(とっさ)に浴槽の壁に逃げ場をなくしてしまっていた彼女を、強く抱き締めていた。ビクッと、怯えるようにしおりちゃんの肩が震える。それにも構わず、私は彼女のまだ少し冷たい身体を抱き締め続ける。浮き出たあばら骨が脇腹に当たって少しだけ痛かったけど、そんなことよりも、今はただしおりちゃんに伝えたかった。 「しおりちゃんは、変じゃないよ」 「お姉さん?」 「私は、しおりちゃんのこと変だって思わないよ。私ね、しおりちゃんにさっき会う前、私なんていなくなってもいいんじゃないかとか、私は要らない人なんだとか、ずっと考えながら歩いてたの。もう、どこかにいなくなっちゃいたいって、思ってた」 「――――、そうなんだ……」 「でもね、しおりちゃんが私のことを見つけて、『たすけて』って私を呼んでくれたとき、もしかしたら生きてていいんだって思えたの。しおりちゃんはね、私のことを助けてくれたんだよ?」  どこまで信じてくれているかはわからない。  だけど、彼女の身体の震えが止まったような気がして、それでまた私は救われた。
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