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『いい子にしててって言ったよね!? なに勝手にお隣さんからお菓子貰ってるの!?』
「ごめんなさい」
『なんで余計なことするの? 二度手間になっちゃうから、何もしないで? 言ったことだけしてよ』
「ごめんなさい」
『言われないと何もできないの!? わかんないの! 私あっち見てたでしょ、だったら……、はぁ、ほんともう!』
「ごめん、なさい……」
『いらない、私のことわからないあんたなんて私の子じゃない』
「ごめんなさい」
『あんたってあんたのパパそっくりだよね、察しが悪くて、わがままで、自分からじゃ何もできなくて。最低……』
「――――ごめんなさい、」
『私がいなきゃ何もできないでしょ? だったら私のこと困らせないで、ちゃんといい子にしてて! 私をイラつかせないで! 私に逆らわないで! わかった!?』
「……っく、ごめ、ん、ごめんなさい」
「お姉さん、」
「ご、めん……」
「お姉さん、おきて!」
「――――――っ!!!?」
目を覚ますと、ソファの上。いつもの無味乾燥でどんなところよりも優しい、私の場所。そこで、私はクッションを頭に敷いて仰向けになっていた。
……違う。
所々ほつれた畳張りで、壁のいたるところに決まり事がしっかりと太いサインペンで掻き出されているのが目に入る、監獄みたいな部屋ではない。
何よりも違うのは、目を開けた私の顔を覗き込んでいるのが、しおりちゃんだということ。心配そうな、不安で押し潰されそうな顔で、私のことをじっと見ている。
「だいじょうぶ……?」
「う、うん……」
「ごめんね、お姉さん」
「えっ、なんでしおりちゃんが謝るの? しおりちゃんは何も悪くないよ?」
「ううん、わたしが怖いおばさんのことをお姉さんにきいたから、お姉さんこわくなっちゃったんでしょ? いやなゆめ、見ちゃったんでしょ? ごめんね?」
「違うよ、しおりちゃん」
申し訳なさそうに俯いて、そのまま泣き出してしまったしおりちゃんを抱き締める。
「あれは、お姉さんのせい。しおりちゃんは何も悪くないよ」
「っく、ひっ、ひっく……」
ふと、思った。
この子はあの頃の私。
もしかしたら、この子ならやり直せるかもしれない。母親から向ける負の感情ではなく、私からの愛情で。目の前の小さな“私”を、やり直せるかも。
ふと、そう思った。
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