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プロローグ
[プロローグ] 嫁候補、見つけた
美しい女性が踊っていた。釘付けだった。
これまでに見た、どんな女性よりも美しい。一発は思った。
これだけの美人を嫁に迎えられたならば、里の面々は腰を抜かすに違いない。何より自分が嬉しい。夜の営みに気合が入る。
脇に演目紙が見える。『踊り子 瑠亜』と書かれていた。踊る女性は、瑠亜という名のようだ。
笛と太鼓、他にも見たことがない楽器が音を鳴らし、踊りを彩っている。
音楽に合わせ、瑠亜が舞い踊る。弾みをつけて飛ぶ。滑る。回る。瑠亜の一挙手一投足が、一発の視線を強く惹いた。
舞うと見え隠れする素肌が、一発の情欲をも刺激する。
瑠亜は、この旅芸人一座の一員なのだろう。一座の一員と思われる何人かが、音楽を演奏している。それらの演奏者は控えめで、全てが瑠亜を際立たせていた。今、世界は瑠亜を中心にしている。そう思えた。
ずっと魅了されていたい。
しかし、瑠亜が華麗に回り、手を広げると、示し合わせたかのように、全ての音楽は鳴り止んだ。瑠亜が優雅に終演の挨拶をする。
艶やかな笑顔が向けられた。自分に向けられた、と思ったが、観客全員へ向けてのものだ。観客はいっぱいいた。百はくだらないだろう。おそらく、ここの村人達だ。
ああ、去ってしまう。
仕切りの裏へ去る瑠亜の姿を、見えなくなるまで眼で追った。
瑠亜。
求婚するなら、瑠亜だ。
瑠亜を嫁として、里に連れ帰りたい。あの女こそ、一生の伴侶だ。
瑠亜が見えなくなり自分を取り戻すと、前のめりで見とれていた自分に気がついた。手の平が、じわりと汗ばんでいる。
求婚だ。求婚しよう。どう求婚しようか。一発は思案した。
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