十二社通りの片隅で

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 フフフ、やっと手に入れた。最後の最期に、本当の君を、真実の君を、白く灰になった君を。  あの日、地方紙の片隅に、君の訃報が載っていた。残念無念、とても悲しい。でも・・・いつまでも悲しんではいられない、早く実行に移さないと。  小学生の頃から、君は僕のそばにいた。いつかは君と一緒になると思っていた。気がつくと君の家で遊んでいた。お菓子をごちそうになったり、宿題を一緒にしていた。それが普通に思えていた。  ある日、事故で僕の両親が亡くなった。僕は親戚の家に預けられることになり、君と会えなくなった。数年は年賀状のやり取りがあったけれど、そのうちに君からの返信は来なくなった。  君と会えなくなってから、二十年過ぎた。でも僕は君の動向はずっと知っていたよ。君が卒業した学校。君が入社した会社。君が結婚したことも。 君が結婚するのを知って、僕は何度も忠告をした。その結婚は正しくないと。  電話や手紙、調べて知った君のメールアドレスにもメッセージを送った。でも僕のメッセージは、君には届かなかったようだ。きっと君の周りの人たちが、僕のメッセージを阻止していたのだろう。僕は異常者のように扱われていたようで、そのうちに警察からも忠告を受けた。  しばらくして、君が入院したのを知った。面会謝絶らしい。でも僕を避けるためではなく、どうやら本当に重病らしい。  何となく胸騒ぎがした。もしかしたら二度と生きている君には会えないかもしれない。でも僕は無力だった。無理やり君に会うこともできない。君を連れ去ることもできそうにない。もしかしたら僕のことを待っているのかもしれないのに・・・。  病室に入ることが無理だとわかった瞬間、別の思いが頭をよぎった。  君の遺体を手に入れる。  葬儀屋の仕事を探した。お通夜の時に遺体を入れ替えようか。いや、参列者が最後に君の顔を見るから無理だ。  出棺の際、霊柩車のドライバーになろうか。それでそのまま二人でどこか遠くへ行こうか。いや、これも無理だ。霊柩車では目立ちすぎる。  最後にしっくりきたのがこれだ。 納骨の際、君の骨壺をすり替える。それほど大がかりではない。別の骨壺を用意するだけでいい。中には骨の標本や、焼肉屋から持ってきた骨を、もう少し焼いて混ぜておけばいい。もう君の骨をじっくる見る人はいないだろうから、多分わからないだろう。  そして、ついにその時がきた。葬儀屋の仕事につくこともでき、通夜も告別式も無事に終わった。君の顔を拝むこともできた。相変わらずきれいだったけれど、もう悲しむ必要はない。もうじき僕のものになるのだから。  四十九日法要が終わり、いよいよ納骨になる。僕も手伝いとして仕事についていった。そして一瞬のスキをついて、骨壺をすり替えた。微笑みそうになったが、唇を噛み締め必死でこらえた。ばれないように、怪しまれないように、慎重に納骨式を終えた。  今、君は僕の手のひらにいる。僕はこの時をずっと待っていた。君はもう何も言わない。でも幸せなはずだ。だって、これからはずっといっしょなんだから。     
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