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#001 09.1.24~26 - Piers side-
春は夜明け。夏は夜。秋は夕暮れ。冬は早朝。
日本の昔の詩人がそんな風に”一日の最も美しい時間”を表現していると教えてくれたのは彼だった。だが、夕暮れが美しいのは、秋だけではないとピアーズ・エインズワースは思う。
一年の中で最も寒さの厳しい時期は、その代償に絵画のような美しい夕暮れを置き土産にして夜を連れてくる。
ピアーズはマフラーに顔を埋めて空を見上げた。待ち人であるクレイグ・キングスコートと待ち合わせした図書館へ向かう足は重い。
約束の時間は、少し過ぎてしまった。
クレイグを待たせているのは申し訳ないが、彼なら時間を潰すのに苦労はしないだろう。どんな難解な医学書でも好き嫌いせず目を通すから、いつか図書館の医学書をすべて脳みそにインプットしつくしてしまうのではないかとひそかに心配しているくらいだ。
ピアーズは図書館の隣りの空き地に設置されているベンチに腰掛けた。もう少しこの絵画のような景色を見ていたい。
ピアーズらの通う大学は総合大学としてはそれなりに有名で、敷地も広く、いくつもの学科棟が一つの敷地に敷き詰められるようにして建っている。広いせいで移動が大変であることは毎年行われる学生アンケートの結果からもよく分かるが、ピアーズは同じ敷地内にありながら干渉しあわない、建物たちの間に潜む空気感が好きだった。
図書館の鼻先、医学科棟の隣にあるこの中庭は、建築学科棟から図書館への通り道であり、クレイグとの待ち合わせでもよく使う場所だ。
クレイグの過ごす医学科棟と、ピアーズが過ごす建築学科棟は間に図書館を隔てており、喜ぶべきかそう遠くない距離にある。しかも医学科棟側の中庭には、高い丘の上にあるという大学の立地を生かしていい景色を眺めながらくつろげるようオープンカフェ式にベンチを配置しており、だれでも自由にくつろげるフリースペースを設けてある。ピアーズはそこが気に入っていた。
ピアーズはベンチに腰掛けた姿勢のまま、沈みゆく夕陽をまっすぐ見つめる。そして小さくため息をついた。
時折、何もかもが億劫になってしまうことがある。
それがなんのせいなのか、考えないことにしておきたい。図書館に行くときはいつも、自分の中に生まれる非常に扱いづらい感情の手綱をきつく握るため、心の準備が必要だった。
「なに黄昏てんだ」
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