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ピアーズはその耳馴染みのいい声に現実へ引き戻され、はっとした。白い息を吐きながら振り返る。暗い色のニットに革のジャケットを羽織ったその出で立ちは、187cmという高い身長もあってさながらモデルのようだ。ピアーズは慌てて平静を取り繕い、ここにいるはずのない男に疑問を投げかけた。
「お前図書館にいたんじゃないの?」
「水買いに来たら見慣れた背中があるなと思って」
確かに彼の手にはペットボトルがある。ピアーズの隣に、クレイグもゆっくりと腰を下ろした。そして少しだけ、心地よい沈黙が落ちる。
「カメラ持ってくりゃ良かったな」
そういってクレイグは指でカメラのフレイムを作った。その横顔が眩しい。クレイグは時折カメラを持ってふらりと何処かへ行ってしまう。趣味なのかと問うと趣味と言うほどでもないというが、それはクレイグなりの照れ隠しなのだとピアーズは思う。
「荷物置いて来たの?」
「ああ。見張りはシェリルに任せて来たよ」
クレイグはなんでもないことのように言って笑った。返答しようとしたピアーズの言葉が詰まる。平気で言うそういう一言が、ピアーズの心を傷つけてるのをこの男は知らない。
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