#004 09.02.03 -Piers side-

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「なぁ、あの親父のすることは全て正しいのか」 「……クレイグ……?」 「俺に、自由意思はないのか?」 真上に見えるクレイグの表情は今にも泣きそうで、ピアーズは講演会で何かがあったことを察した。いや、いままで募ってきたものが、講演会で爆発したとでも言うのだろうか。とりあえずピアーズは、クレイグを落ち着けようと必死に言葉を紡いだ。 「……お前は、自分の好きなように生きていいと思う。お前は親父さんとは別だ」 「だが世間はそう見ていない。世論があの人のやることをすべて肯定しているように見える。俺は、……あの人のいいなりにしかなれない。でも、それがひどく苦痛なんだ、どうしたらいい。将来の夢も、恋も、日々のスケジュールも、……全部あの人の決定に背くことは許されない」 「ちゃんと主張しろよ、自分は嫌だって」 「……それができたら苦労しない。……なあピアーズ、一つだけ俺の願いを聞いてくれないか」 「いいよ、いくらだって聞いてやる」 「俺だけを見ろ」 その強い言葉にピアーズが狼狽え、目をそらした瞬間……クレイグがピアーズの頬を両手で掴んで唇の先が一瞬触れた。しかし、すぐにクレイグがうつむく。 「……ごめん、こんなことするんじゃなかった」 クレイグはそう言ってピアーズから離れ、ベッドに倒れ込んだ。 キスとも言えない、ただ触れただけの唇が熱い。 「……なんでだよ、なんで後悔すんの」 ピアーズは、自分でそう言いながら、意味がわからなかった。ただ今は、クレイグがしようとしてやめたことを、無性に責めたい気分だった。 このまま流れでしてしまいたかったのかもしれない。でも、それはイヤで、本当は最初を大事にしたかった気もする。それのどちらともが、今のでなくなってしまった。中途半端なキスで、どちらもなくなってしまったその事実が、恨めしい。 「……お前の気持ちを、考えるべきだったんだ。悪かった。俺の気まぐれで」 「……そうかよ」 ピアーズは、床に座り込んだ。それでも、クレイグが動く気配はない。
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