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「お前の尊敬する教授だろ? そんな人のいる設計事務所なら、黙ってても助手なんていくらでも来るさ」
「……そうかな。真意はわからない。なんていうか、ミステリアスな人なんだ」
教授は、いかにも芸術家といった妙な色気を持つ男だった。名をアダルバード・マッソンという。
まだ35という若さながら寡黙だし、表情から何を考えているかわからないようなポーカーフェイスは、研究室へ運ぶ学生たちの足を遠ざけた。
建築学科の学生たちは自分を売り込むために色んな教授のもとへ足を運ぶが、そんな学生たちでも、彼のところへは月に5人行けばいい方だった。勿論実績だけを見れば学内でも随一だったが、彼の研究室へ行ったという学生はみな一様に口を揃えて「あの教授には教える意思がない」とか「学生の学習意欲を削いでいる」などと言うのだ。
ピアーズは元々他に懇意にしている教授がいたからそちらの研究室で事足りたし、近寄ることはしなかったけれど、彼の手から生まれる作品が大好きだったから、いつか学習意欲を削がれたとしても話をしてみたいと思っていたのだ。勿論そこにはクレイグがいう尊敬の意思というものと、そして自分の建築学に対する意思を他人に曲げられるわけがないという自負もあったからであろう。
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