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考えているうちに自分がどれだけこの男に惚れ込んでいるのかを思い出して、ピアーズは苦しさに目をそらした。どうして自分ばかりが好きなのだろう。このお門違いな悔しさや腹立たしさは、恋心を構成する気持ちの成分のうち、どのくらいを占めるのだろう。
「ピアーズ? 大丈夫か」
ぼんやりと思考に耽っていたピアーズの意識を掬い上げるクレイグの声。
夕陽は殆ど沈んでしまって、空も紫に染まり始めている。
「……ああ。ごめん、そろそろ時間?」
「全然。まだいてもいいけど」
「いや、いいよ。行こう」
ピアーズはクレイグより先に立ち上がり、すぐに歩き出した。
ちらりと見た腕時計は16:23を指している。16時に図書館でと約束していたのに、随分とタイムロスしてしまった。
後ろを歩くクレイグを振り返ると、どうした、と眉をあげてクレイグが答えた。その表情は高校の頃から変わった気もするし、変わっていない気もする。
だからだろうか、あのときからずっと変わらない。こうして視線をぶつける度にこの気持ちが心を満たしていくのを感じる。さっきまでかすかな嫉妬を燃料に赤く高く燃えていた心の炎は、もう柔らかなゆらめきを取り戻している。
(……この男が好きだ。)
声にならない思いは、もう募り募って4年目。初めて出会った高校2年生の春から、ずっと減ることなく増幅していく。しかしこの飄々としたクレイグの様子をみているとそれを認めるのがなんとなく悔しくて、ピアーズは自分自身にさえ嘘をつきたくなることがある。自分ばかり好きみたいで、いつかこの邪な思いがばれて蔑まれるのではないかという思いが先に来る。
「よそ見してるとぶつかるぞ」
クレイグは大きな歩幅でピアーズを抜かしていく。そして振り返って小さく手招きをする。唇の端を上げて、器用に笑うのだ。
そのおどけるような表情に、ピアーズも自然と走り出していた。
まだ着地地点はわからない、ピアーズに行動する気がない限り、もはや発展も失恋もないことは重々承知なのだ。高校時代、様々なことがありながらもずっと答えを出さずに来たことを、ピアーズは心底後悔している。
それでも終わりがなければそれでいいと、ピアーズはいつも自分を納得させては少しだけ苦しくなるのだった。
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