#005 09.03.01 - Piers side -

5/6
前へ
/129ページ
次へ
「ふうん。芸術家とかってそんなもんだよな。天才と変人は紙一重だ」 「……うん、そうだな。あの人は、絵描きとしても大成してるし」 正直、まだわからないことがいくつかあって決めかねている。本当はクレイグに相談するつもりだったけれど、自分の優柔不断なところを彼の前に晒すのが嫌で言葉を濁した。 「で、お前はどうすんの? 手伝いはするわけ?」 「……世界を股にかける建築家だ。一流の仕事をこの目で見たいって気持ちはあるよ」 ピアーズの真剣な話を、クレイグはいつもまっすぐな瞳で聞いてくれる。こちらが話すのに夢中になっているときはいいけれど、ふと気を抜くとその青い瞳に吸い付けられそうになってしまう。 「……そうか。大変だと思うけど、そうなったら頑張れよ」 「あ、でも今までの生活を大幅に崩すようなつもりはないから。ちゃんとジムやダーツにも行くし、図書館で勉強できなくなるとかもないようにするから」 ピアーズは慌てて付け加えた。クレイグが自分に遠慮して会えなくなるのが怖かった。 しかしクレイグは、意に介さない様子でからりと笑う。 「いいよ、お前の好きなようにやれば。お前の将来への障壁になるつもりはない。未来のために邪魔だから消えてくれと言われたら、黙って消えるさ」 「……それ本気? ユーモアのつもりならセンスないんじゃない」 口調が拗ねてしまった。ピアーズの思わぬ反撃に面喰った様子のクレイグを見て、少し罪悪感が残る。それを払拭しようと、ピアーズは慌てて話題を探した。 自分のこういうところが嫌だ。クレイグと同じ気持ちなわけがないのに、自分の気持ちに相応のものが返ってこないとすぐに気持ちが荒れる。 「なあ、ところで久しぶりにポートオール美術館に行きたいんだけど、いつ行く? あと、今度ニューヨークでお前の好きな写真家の写真展があるだろ? あれもオレ行きたいんだよね」 「……いつでもいいよ、お前が行きたい時で」 クレイグがにこりと微笑んで頷く。そしてすぐにうつむいた。 その瞼に滲む色気にいつもあてられそうになる。 ピアーズは欲望が膨れ上がる前に、頭の中で次の外出の日程を組んだ。
/129ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加