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プロローグ 喫茶丸屋
かつて城下として栄えた町であり、水郷として今も人気観光地である町……からやや外れた、とある町。
その町の目抜き通りから一本奥まった通りに、喫茶「丸屋」はある。
以前は小物を扱う店だったというそこは、今の店主になってから喫茶店になったのだという。
オープン以来店主に商売っ気もやる気もなく、先代からの知り合いや近所の人間が利用するに留まっていた丸屋は今、かつてないほどの賑わいを見せている。
「ええー! そんなのって……そんなのってないよ。わあ……悲しい。切ないー」
賑わう丸屋の店内で空になったトレンチを胸に抱き、初一(はついち)琴音(ことね)は客の話に相槌を打って滂沱の涙を流していた。
「もー琴音さん、泣きすぎだって!」
「だってぇ……聞いてたら涙が出ちゃって……」
「これで涙拭いて」
話し手だった女子高生に紙ナプキンを差し出され、琴音はそれで涙を拭った。それでも、涙はあとからあとから出てきてしまう。
「じゃあ、次はあたしの失恋話ね」
「えっ……今日はもう勘弁して……また泣いちゃうからぁ」
「でもー、あたしも琴音さんに話聞いてもらって泣いてもらいたいー」
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