マノンの魔力検査

4/5
3366人が本棚に入れています
本棚に追加
/757ページ
 庭に面した広い客間に、彼女たちと向かい合わせで座った。  こちらは本人を挟んで母とリュシアンが座っている。先ほどからマノンはリュシアンの手をぎゅうっと握りしめていた。  今朝から緊張するマノンを慰めていたのだが、どうやら時間になって緊張がピークに達したのか、母が呼びに来ても離れようとはしなかったのだ。  仕方がないのでこのように一緒に並んでいるという訳である。   「大丈夫だよ」  声をかけるとマノンは硬い表情で頷くが、手のひらは汗ばんでいた。  にこにこと優し気に微笑む女性は、マノンの緊張をほぐすように自己紹介から始めた。 「教会から派遣されたエマ・ユーグです。こちらはお手伝いをしてくれるピエール」  紹介された少年はぺこりと頭を下げた。それにつられるように、マノンもちょこんと頭を下げる。 「では、とりあえず魔力量の測定をして、それから属性検査をしますね」  エマはカバンから一枚の紙を取り出した。  異世界では紙は貴重なのではないかと思ったが、案外そんなことはなかった。  植物から繊維を取り出して紙を作る製法は、錬金術が盛んなこの世界では珍しくもないようである。ただ需要と供給が釣り合っていないので、少し高価なものであることは変わりがない。  丸めてあるそれを広げると、ワックスを塗ったようなつるっとした表面に、複雑な魔法陣のようなものが書いてあった。 「さあ、マノン様。こちらに手を置いてください」  恐る恐る差しだした手を、紙へと伸ばす。  瞬間、ぽうっとオレンジ色の光が浮かび、魔法陣の端から文字をなぞるように光が走っていった。 「きゃっ…!」  ただでさえビクついていたマノンは、その変化に驚いて手をひっこめた。  その反応は、なんら普通の変化だったのだが、何分初めてのマノンにはびっくりするに十分だったのだ。  紙はマノンの手のひらに引きずられ、手前に滑り落ちた。 「驚かせてしまったようですね、申し訳ありません」 「いえ、こちらも娘に説明しておくべきでしたわ」  慌てた女性職員が紙を拾おうと立ち上がったのを、アナスタジアは手で制した。 「母様、僕が拾います」 「あら、ありがとう」  母親が拾おうとした紙を、リュシアンはしがみついている妹をそのままに片手で拾い上げた。
/757ページ

最初のコメントを投稿しよう!