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庭に面した広い客間に、彼女たちと向かい合わせで座った。
こちらは本人を挟んで母とリュシアンが座っている。先ほどからマノンはリュシアンの手をぎゅうっと握りしめていた。
今朝から緊張するマノンを慰めていたのだが、どうやら時間になって緊張がピークに達したのか、母が呼びに来ても離れようとはしなかったのだ。
仕方がないのでこのように一緒に並んでいるという訳である。
「大丈夫だよ」
声をかけるとマノンは硬い表情で頷くが、手のひらは汗ばんでいた。
にこにこと優し気に微笑む女性は、マノンの緊張をほぐすように自己紹介から始めた。
「教会から派遣されたエマ・ユーグです。こちらはお手伝いをしてくれるピエール」
紹介された少年はぺこりと頭を下げた。それにつられるように、マノンもちょこんと頭を下げる。
「では、とりあえず魔力量の測定をして、それから属性検査をしますね」
エマはカバンから一枚の紙を取り出した。
異世界では紙は貴重なのではないかと思ったが、案外そんなことはなかった。
植物から繊維を取り出して紙を作る製法は、錬金術が盛んなこの世界では珍しくもないようである。ただ需要と供給が釣り合っていないので、少し高価なものであることは変わりがない。
丸めてあるそれを広げると、ワックスを塗ったようなつるっとした表面に、複雑な魔法陣のようなものが書いてあった。
「さあ、マノン様。こちらに手を置いてください」
恐る恐る差しだした手を、紙へと伸ばす。
瞬間、ぽうっとオレンジ色の光が浮かび、魔法陣の端から文字をなぞるように光が走っていった。
「きゃっ…!」
ただでさえビクついていたマノンは、その変化に驚いて手をひっこめた。
その反応は、なんら普通の変化だったのだが、何分初めてのマノンにはびっくりするに十分だったのだ。
紙はマノンの手のひらに引きずられ、手前に滑り落ちた。
「驚かせてしまったようですね、申し訳ありません」
「いえ、こちらも娘に説明しておくべきでしたわ」
慌てた女性職員が紙を拾おうと立ち上がったのを、アナスタジアは手で制した。
「母様、僕が拾います」
「あら、ありがとう」
母親が拾おうとした紙を、リュシアンはしがみついている妹をそのままに片手で拾い上げた。
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