謎の少年

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 気絶しているオークモドキを、とりあえず暴れないように拘束すると、ナイフを片手にリュシアンは途方に暮れていた。 「困ったなあ」  必要なのは背脂だが、素材を剥ぐという作業は慣れない人間がやると品質が落ちるって言うし。クリフなら何とかできそうだけど、問題はこれをどうやって持って帰るかということだ。  考えてみれば、こういう仕事は冒険者の役目だと無意識で考えていた。実際、母も素材集めするときは冒険者を雇っているし、素材を剥ぐのも彼らに任せている。  無自覚のうちに役割を分担して考えていた。  貴族であるということ。上に立つということ。中身は身分制度の感覚がない日本人だが、生まれてこのかた貴族として生きてきた記憶も存在する。  常に誰かが助けてくれる環境を、当たり前だと思ってはいけない。そんなことは前世でいやというほど骨身に染みたはずなのに。  人間というのは楽な方には容易く馴染みやすいものだ。  いずれ独り立ちする気なら、なんでもできるようにならなくてはならない。ましてや自分は追われる身になる可能性さえあるのだから。  明るすぎる未来の展望に、リュシアンは重いため息を吐いた。  とりあえず今は、できないことを嘆いていても仕方がない。今日はこのまま帰り、明日また事情を話してクリフに一緒に来てもらうのがよさそうだ。  怒られるのは、もう仕方がない。 「……っ!…、…わぁ」  そんな時、どこかから人の騒ぐ気配がした。むしろ、悲鳴のような?  振り向くと、かなり後方で草むらがガサガサと激しく動き、やがて一人の少年が転がり出てきた。  何かを振り払うように、また顔を庇うように身を丸めていた。  とっさに駆け寄ろうとして、その少年を追うものの正体を知った。 「あれは、タイガービー…、か?」
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