王都からの手紙

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 五才児の前に、土下座の少年一人…、何とも言えない絵である。 「とりあえず土下座やめてくれない?」  リュシアンはしゃがんで少年を覗き込む。  けれど地面におでこを擦りつけたまま、彼は頭を振った。そんなことしたら、おでこ擦り傷だらけになるよ。 「これじゃお話しできないから、顔上げて」  困ったようにため息をついたリュシアンは、今度は少し強めの口調で言った。  案の定、びくっと身体を揺らした後、おずおずと顔を上げた。  やっぱりね…、これは躾けられた人間の仕草だ。おそらく彼は奴隷だ。それもかなり抑圧されている。  主人は間違いなく糞野郎だろう。  そして彼が受けた命令も、おおよその見当はついている。 「君…、魔力検査の時、教会の人にくっついてきた子だよね?」  リュシアンの大人びた口調に、思わず目を合わせてしまった少年は、すぐに慌てて顔を伏せた。イエスともノートとも言わなかったが、リュシアンの質問はそもそも事実の確認でしかない。  あの時の少年であることは間違いないし、ここにいたのもリュシアンの監視か…、もしかしたら暗殺か。  いや、暗殺までは任されてはいないか…、ビーに襲われる程度だし。  それさえも演技だと言われればわからないが、ともかくこれじゃ埒があかない。 「ねえ、とにかく立って。この場所はれっきとした私有地だし、それだけでも君は捕縛ものだよ。こんなところにグズグズしてるのはまずいと思うよ」  はいつくばっていた少年は、それを聞いていきなりバネの入った人形のように飛び起きた。立ち上がると、リュシアンよりずっと背が高い。びっくりして、逆にリュシアンがひっくりかえりそうになった。 「待って、まず落ち着いてってば」
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