王都からの手紙

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 今にも逃げ出しそうな少年…、たしかピエールだっけ、をいささか慌てて引き留めた。ここで問い詰めても、おそらく彼は何も言わない、いや、言えないだろう。  この先の危険性を考えたら、もしかしたらここで然るべき処置をするのが正解なのかもしれない。だが現実的にそれができる状態にはない…、リュシアンの心の準備的なことも含めて。  むしろ切実な問題としては、とりあえず手を貸してほしい。  そう、正直なところ猫の手も借りたい状況なのだ。  引き留めるために腕を捕まれたピエールは、思わず立ち上がってしまった失態に顔面を蒼白にして「ひぇっ…!」と変な声でうめいて、見事なまでのジャンピング土下座を繰り出した。 「いや、だからそれやめて」  キリがない……まったくもう。  頭上から呆れたような子供の声がしたと思ったら、ピエールの身体はふわりと重力に逆らって持ち上げられていた。驚いて顔を上げると、そこには例の子供がにっこりと笑っている。  両肩をがしっと掴んだ幼い手が、ひょいっと事もなげに自分の身体を起こしているのだ。もちろん足は地面に付いているが、それでも全体重のほとんどは子供の手にかかっているはずである。  そういえば、ビーに襲われたとき思いっきり担がれていたことを思い出す。 「ねっ、ピエール。ちょっとお願いがあるんだけど」  ニコニコと無邪気に嗤う天使のような容姿の少年に、持ち上げられたままのピエールはただコックリと頷くことしかできなかった。  一方屋敷では、エヴァリストが一通の手紙の前でひどく憂鬱な顔をしていた。  豪華な金の縁取りのある封筒には、二つの獅子の頭に王冠を戴く姿を模した蝋封が施されている。   「今更…、いったいなにを…」  それは、モンフォール王家からの正式な召喚状だった。
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