対価と謹慎

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 オークを捌いたナイフを拭いていた少年は、そんなリュシアンにぐるんっと身体を向けた。  カバンからもう一本取り出して合わせて二本、それをもう一度ピエールの手のひらに戻す。  これは正当な対価だから。そう言うと、躊躇いながらもようやく受け取った。  ひどく大事なものを持つように胸に抱え持って、ピエールは深く頭を下げた。それは土下座なんかよりずっと心からの気持ちがこもっていると思った。  リュシアンが屋敷に戻ってきたのは、すっかり日も暮れて星の瞬く頃だった。  まさに捜索隊が結成されようかという、とんでもない騒ぎになっていた。  そして生まれて初めて、リュシアンは優しい母が怒るのを目の当たりにした。あまりの形相に思わず叩かれるかと身を縮めた瞬間、潰されるかと思うくらい抱きしめられた。泣きながら怒る母の姿に、めちゃくちゃ反省したのは言うまでもない。  初めての大冒険は、こうして大波乱のうちに終わったのである。    そしてもちろん、やったことへの対価は支払わなければならない。  父親によって、一週間の謹慎を言い渡された。  屋敷の外へは一切出てはいけないと厳命されてしまった。薬草園にも行ってはいけないと。  リュシアンは結局、書斎にこもっていた。  ただ、せっかく集めた素材を無駄にするのはかわいそうだと言って、母は錬金に必要な道具を書斎の隅に設置してくれた。大掛かりなものは無理でも、紙の精製くらいならギリギリできそうだ。  あんなに心配させたのに、母はどうしてもリュシアンに甘い。    錬金の傍ら、冒険者向けのモンスター解体の本なども読んだ。記憶はできても、こればかりは実地で覚えなくてはどうにもならない。とりあえずは知識だけ詰め込むことにした。  一週間もあったが、勉強と錬金であっという間に時間は過ぎていった。
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