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「やはり…は、王都の……関係…らしい」
「まあ、では……もしかして…の」
途切れがちな声が、部屋の隅から聞こえてくる。
「君の…からは、無理……か?」
「……様が亡…第…の派……で…」
よく聞こえない。
両親の声だということは辛うじてわかった。
高い熱のせいで散漫になる意識の中、なんとなく彼らの話を聞いていた。
さわさわと意味をなさない話し声が、やがて徐々に明瞭になった。
二人がベッドの方へと歩いてきたのだろう。
「どうして放っておいてくれないのかしら」
母の声が涙ぐむ。
「泣くでない。辛いのはこの子なんだ。なんとか私たちで守ってやらねばな」
「わかってますわ。たとえ王家でもリュクは渡しません」
王家に…?
なぜ王家の話になるのだろう。
はっきりいって王都になど行ったこともないし、王家のことなど教科書の中のことだ。
伯爵家の三男坊を、何が悲しくて王家が欲しがるんだ?
ここで、腑に落ちた。
ああ、そうか。
熱に浮された頭が、すっと冷めていくのを感じた。
逆だ。
いらないのだ。
排除したい、ということなのかもしれない。
なんとなくわかってしまった。
もちろん、詳細など知らない。大人になれば話してくれるかもしれないが、今はこれで十分だ。
おそらく僕は…いや、僕の「血」を、邪魔だと思う奴がいるんだ。
リュシアンにとって衝撃だったのは、むしろこの優しい両親が本当の親ではないかもしれないということに終始した。どんな秘密を明かされようと、おそらくそれ以上の驚きもそして悲しみもないだろう。
俺は、また家族を失うのだろうか?
優しい母の細い指が、僕の髪を撫でている。
父親はおそらくそんな母の肩を抱いているだろう。
僕は貴方たちの子供でいたい。
熱のせいでもなく、殺される恐怖でもなく、その瞼から涙がこぼれ落ちた。
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