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そろそろ朝食の為に食堂に向かおうとしていたリュシアンは、いきなりの衝撃に危うく前のめりに倒れそうになった。
「あ、危な…、もう少しで調合道具に突っ込むとこだった」
調合に使う機器はすべてガラス製だ。頭からつっこんだら洒落にならない。
ちなみに、この世界では特定の鉱石を錬金したものを、さらに熱加工したものがガラスとなる。材質としては、ほぼ元の世界のガラスと変わらない。
まさか地震とか?!
書斎の重い扉を開くと、屋敷の中は騒然としていた。
切れ切れの言葉の端を拾うと、どうやらモンスターが出たらしい。
モンスターが、ここまで?
しかもこれほどの騒ぎになるモンスターが出現したとなると非常事態だ。裏山の森のモンスターはせいぜいがDランクまで。常駐している騎士たちの手にかかれば苦戦するとは思えない。
「何が起こっているんだ…」
リュシアンはいやな予感がした。
なぜかピエールの顔がフラッシュバックする。気を取り直して、部屋に戻ったリュシアンは作ったばかりの魔法の巻物の入ったカバンを掴んだ。
魔物に通用するかどうかはわからないが、少なくとも追い返すぐらいの役には立つかもしれない。
薬草園へ行くと、モンスターにやられたであろう怪我人が転がっていた。温室と錬金作業場がある小屋は、臨時の救護施設のようになっている。
覗き込むと、母やメイドたちが怪我人の手当をしていた。
調合錬金で作る傷薬は、効き目はいいが消費期限がある。そのため普段は大量には作っていないので、圧倒的に数が足りないようだ。
常備できる塗り薬や、即席で薬草をすりつぶしたもので代用するしかなかった。
なにしろここは冒険者ギルドでもなければ、最前線の戦場でもない。薬の準備も、回復魔法が使えるヒーラーもいない。
母も少しは回復魔法が使えるが、それほど魔力がないのでいざというときの為に温存しているらしい。
マノンは言わんこっちゃない、さっそく目を回している。おそらく魔力枯渇だろう。初心者がやりがちな失敗だ。……子供だしね。
てか、こんなとこ来ちゃだめでしょう。
母は手が回らないようなので、手当が終わって現場に戻ろうとしている騎士を捕まえて、マノンを屋敷の執事に預けてくるように頼んだ。
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