騒動の行方

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 幻惑と防御魔法のおかげで、エヴァリスト側の形勢はなんとか均衡を保つまでには回復していた。こちらを気にしている様子は見せるものの、とりあえず父はリュシアンを黙認することにしたらしい。いや…、あとで覚えとけ的な感じかもしれない。  問題はピエールの方だ。  騎士数人でグリズリー二匹を相手になんとか持ちこたえてはいるが、傷だらけのピエールが小さなナイフ一つ持ってその場に佇んでいた。  戦いに参加するわけでもなく、立っているだけ。いっそ騎士たちに任せて逃げればいいものを、なぜ逃げない?  むしろ戦う騎士たちの邪魔になっている。なぜか熊はひどく興奮状態で腕をふりまわし、地団駄を踏むように足を踏み鳴らしていた。  その辺に散らばるチンピラどもが、さっきからヨロヨロと起き上がろうとしては興奮した熊によってなぎ倒されていた。時々聞こえてくるカエルが潰れたようなうめき声は、転がったチンピラを暴れまわるグリズリーが踏み散らかしていたものだったらしい。  本来戦闘員でない父やクリフの方が、こちらの鎧を着た騎士たちよりも傷が浅いのは、恐らくこの熊の興奮状態の違いだろう。  そのことに気が付いて、素早く視線をピエールに向ける。  原因はすぐにわかった。腰にぶら下がっている小さな巾着袋、そこから時折さらさらと粉状の物が落ちていた。 「ピエール、その巾着袋を捨ててっ!」  暴れるグリズリーを見つめる少年は、その声に反応しなかった。恐怖で足がすくんでいるのか、もしくは……すべて覚悟の上のことなのか。  そして鋭い爪を持つグリズリーの腕が振り上げられた。 「あんの馬鹿ッ…!」
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