目覚め

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 ゆっくりと目を開けると、覗き込むいくつもの顔があった。 「ああ、よかった。リュク、わかりますか?」  青い瞳が、優しそうに微笑んだ。  オービニュ伯爵の妻、アナスタジア。  決して華美ではないが、いつも笑顔を湛えた素朴で愛らしい女性だった。美しい金髪を結い上げているが、それでもかなり若く見える。  答えようと「母様」と呼ぼうとして、咽喉がつっかえて思わずせき込んだ。  妹のマノンが慌ててベットサイドの水差しを母親に渡す。 「あ、俺は父上呼んでくる」  やり取りを見ていた兄のロドルクは、はっとなって慌てて部屋を出て行った。  水差しの水で喉を潤すと、リュシアンはようやく落ち着いたようにため息をついた。  すぐに身体を起こそうとしたが、母はそれを許さず肩を軽く押さえて首を振った。 「まだ起きてはいけませんよ。気分は悪くありませんか?」 「にいさま、へいき?もうだいじょうぶ?」  仕方がなく母に頷いたリュシアンは、ベットに縋りつく妹の頭を撫でてやって「大丈夫だよ」と笑って答えていた。  ふと母が少し驚いたように瞬きして口を開きかけたが、すぐに父が部屋に入ってきて意識はそちらへ移った。 「リュクは大丈夫か?アニア、どうなんだ」 「先生にきちんと診て頂かなくてはいけませんが、今のところは問題なさそうですわ」 「ご心配かけて申し訳ありませんでした、僕はもう平気です」  先ほどの母同様、リュシアンの常とは違う様子に目を見張りはしたものの、父はすぐに一つ頷いて優しく笑いながら続ける。 「先生が来るまで横になってなさい、しっかり診てもらうのだぞ」 「はい、ありがとうございます」  いつもならこういう出来事の後は、ひどく落ち込んでいて浮上させるのが大変なのだが、リュシアンの表情は意外なほど明るかった。それこそ普段よりも、と言ってもいいくらいに。  どこか不思議そうな顔をしている両親に思わず苦笑する。  変に思われるかもしれないが、リュシアンはわざわざ態度を改める気はない。  元のリュシアンはもちろん自分ではあるけれど、たぶん今はまったく同じ人物ではない。  ただ、昨日の夜のことはまだ父母には言わないでおこうと思った。
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