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ようやく這い出てきたリュシアンは、状況をみて愕然となった。
リュシアンを庇ってサーベルで切られたピエールはまさに虫の息だった。暗殺者の刃には例外なく毒が塗ってあり、そのせいもあって意識はすでに朦朧としている。
「俺はいい…、でも妹は、関係ない、んだ」
「そんなことはわかってる。大丈夫、まずは自分のことを…」
リュシアンの悲痛な声に、彼は少し笑ったように見えた。
「あいつを…学校、に」
ぼんやりとした顔で、まるでうわごとのように呟いている。もうあまり聞こえてないのかもしれない。応急処置をしようと駆けつけてきたクリフに、すぐに母を呼んでくるように言った。
「眠るなよ、すぐに母様が来る!」
魔法なら助かるかもしれない。手当の道具をひったくるようにして受け取って、すぐに血止めの薬草を貼って白い布を巻き付けて縛り上げた。解毒もだけど、この出血を何とかしないと。
「学校に…」
「しゃべるな、ばか!…学校なんかより、お前がっ」
涙が出そうになって言葉が詰まった。
兄貴が無事に帰ってこなかったら何にもならない。なんでそれがわからないんだ。
遅い…!母様早く。気ばかり焦るが、あれから数分もたってない。だけど、すでにピエールの状態は猶予が無いように見えた。
すでに視線は誰もとらえておらず、なんの反応も示さなくなった。
やばい、やばい…どうすればいいんだ。
早く!母様…はやく、今は回復魔法だけが頼り……、あ。
「あるじゃん…、回復魔法」
自分だって、魔法は使える。だけど……
そう、魔法陣は覚えてるのに写すものがない。使用済みのは焦げて使い物にならないし、それに五枚もいる。回復魔法の魔法陣はあれしか覚えてないのだ。
先ほどから軽く震えていたピエールの身体から、ふっと力が抜けた。慌てて触ると、ゆらっと頭が傾いてゆっくりと瞼が落ちて行った。
ダメだ、ダメだ、ダメだ。こんなの、許さない。
「ダメだっ!ピエール」
瞬間、青白い光が目の前に広がった。
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