事後処理

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 まるで視えない筆で描くように、魔法陣が目の前に一枚、また一枚と展開されていく。  時間にすれば、ほんの数秒だったに違いない。  瞬くような速さで陣の中にスルスルと滑らかに呪文が刻み込まれていき、やがてリュシアンの前には青白い光を放つ五連の魔法陣が現れた。   その場にいた全員が、思わず手を止めて呆然と見上げている。輝く五枚の魔法陣が並んださまは、壮観としか言いようがない。  最後の呪文が紡がれた時、なぜかリュシアンはどうすればいいか分かった。 「フェアリーサークル!」  言葉に乗って、魔力が魔法陣を突き抜けていく。  爆発にも似た光の渦が、リュシアンを中心にして薬草園のほぼ全体を包み込んでいった。  あの襲撃事件から一週間、エヴァリストは事件の後始末に奔走した。  生き残った首謀者の残党と、ピエールの証言で黒幕が明らかになった。子爵位をもつ男で、数年前までは王都にいたらしい。そして、これだけのことをしでかしながら、財産の半分没収、国境端の辺境へ飛ばされるのみという処分が下された。明らかに、どこかからの梃入れがあったとしか言いようがなかった。  少なくとも本当の意味での黒幕ではなかったのだろう。  ちなみにピエールは、怪我どころか毒の後遺症もなく無事だった。  すでに死亡していた暗殺部隊の面々以外は、騎士や薬草園の使用人たちも全員無傷の状態である。言うまでもなくあの最後の範囲魔法がもたらした結果だ。  あの場にいた半数の人間が、何が起きたのかわかっていなかったようだった。真実を知っているのは、中心部にいたほんのわずかの者たちのみだっただろう。  加えていうなら、あの場で一人だけひっくり返った人物はいた。リュシアン当人である。 「鉱山奴隷になるというのか?」  エヴァリストは、ため息とともに目の前の人物を見た。  重厚な机の上には、座っている人物の顔が隠れるのではないかという書類がうずたかく積まれており、その向こうの少年の姿も半分しか見えない。その横にはリュシアンと同い年くらいの少女が立っている。  ピエールと、妹のリディだ。
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