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結局のところ情状酌量が認められ、ピエールは元の雇い主から無条件で解放された。むろん身分は奴隷のままだ。
子爵が保有していた奴隷のほとんどは、今回のことで財産の返還という形で商業ギルド預かりとなった。ピエールが今ここにいるのは事情聴取の為である。
ピエール達を買い取り、奴隷から解放することは難しいことではないが、放逐された奴隷全員にできるわけではない。それならするべきではないというのがエヴァリストの考えだった。
だが、商業ギルド経由できちんとした売買が行われれば、身寄りのない彼らにとってはむしろその方がいいのかもしれない。少なくとも寝食に困ることはない。
そこへもってきて、先ほどの問答になる。
自らの意思で鉱山の奴隷に売ってほしいとピエールは言った。その余剰金で、なんとか妹を買い取り自由の身にして学校に行かせたいのだという。
父の横でハラハラと見守るリュシアンは、ピエールとエヴァリストの顔を交互に見た。同じくリディも心配そうに兄を見上げていた。もしかしたら兄の言っていることの意味をあまり理解できてないのかもしれない。
「……わかった」
「父様っ?!」
大きく息をついたエヴァリストは、観念したように頷いた。驚いたリュシアンが声を上げると、それを手で制して続けて口を開く。
「君の覚悟はわかった。罪の意識もあるだろう。このまま許されても、君は納得しないだろう」
「は、はい」
「しかし、君は犯罪奴隷ではない。懲罰ではない鉱山での労働は、我が国の法律では十六才からだ。私が法を守らないわけにはいかない」
「……っ」
ぴしゃりと言い放つエヴァリストに、ピエールは黙り込んだ。
もとより鉱山での労働は、死との隣り合わせの危険な労働のため、犯罪奴隷が罪を償う(極刑と同義)ために送り込まれる。志願してくる者は、法外な労働賃金目当てでくる命知らずたちに他ならない。
とは言っても正直な話、妹のリディを自由の身に開放したとして、学校に行くまでの面倒を誰がみるのかとか、学校に行ってもそこでの生活費をどうするのかとか、彼が鉱山奴隷になったからと言ってすべてが解決できるほど現実は甘くない。
ピエールも本当はわかってはいるのだ。ただ、なにか自分を追い込んで贖罪をしたかったのかもしれない。
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