ドワーフの防具屋

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 目立たない路地裏の角地に、その防具屋はあった。こんなところに客がくるのだろうか?と不安になるほど寂れていた。  もう少し行くと、商業施設が並ぶこの界隈をはなれ、貧民街に入るという場所だ。  古ぼけた木製の扉を開けると、カウベルのような鈍い鈴の音がした。  小さな部屋には所狭しと防具が並んでいる。皮製、金属製など様々だが、確かにおかしなものは置いてない。皮はきちんとなめされ、縫製もしっかりしている。  ピエールが勧めるだけはあるな、と感心した。 「なんじゃ、ピエールぼうや、おんし無事だったんか?」  奥から顔を覗かせたのは、背の小さなずんぐりとした髭の男だった。  うわー、本当にドワーフだ。リュシアンは、ついついぶしつけに凝視してしまう。この世界には人以外にも種族がいると聞いたが、周りにはほとんどいなかったので初めての遭遇だった。 「どういう意味だよ、おやじ?」 「おお、リディもよく無事じゃったの。どれ、顔をよく見せてくれ」  ピエールの質問には答えず、ドワーフの男はリディの前に座り込んだ。 「儂のことは覚えておらんかもしれんの。まだこの子は小さかったからな」  きょとんとするリディの頭を、武骨な手で優しく撫でてから、ようやくピエールに向き直る。 「お前らが奴隷商に連れていかれてから、いろいろ噂だけは聞いておってな。なんでもロクデナシの雇い主にこき使われたあげく、ヤバイことに関わって行方がわからなくなったとか」  そうだね、だいたいあってるね。うんうん、と人ごとのように頷きつつもリュシアンは、革製の小手のような物を見ていた。あ、これいいな、攻撃をいなすときに使えそう。 「ん?なんじゃこの小僧は…、もしやロクデナシの雇い主の関係者か?どれ、儂が…むぐっ」 「ばっ…!なんてこと言って…違う違う!ぼっちゃんはむしろ助けてくれた側のお方だ。領主様のご子息でリュシアン様だよ」  品物を物色しているリュシアンを指さしたドワーフのおやじに、ピエールは慌てふためいて飛んで行ってその口を塞いだ。  自分の名前が出たことで、リュシアンはあらためて髭男の前に立った。 「はじめまして、リュシアンです」  ぴょこんと頭を下げた少年に、ピエールに羽交い絞めにされた格好のままの髭オヤジは、残念ながらコクコクと頷くことしかできなかった。
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