ドワーフの防具屋

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 彼の名前はトニー、すでに五十年近くこの地で防具屋をやっているということだ。腕のほどは間違いなく、冒険者たちも表通りから外れたこんな僻地までわざわざ足を運んでくるらしい。見かけはなんだか厳ついが、話してみるとわりと陽気で人好きのする人物だった。  今回は、オーダーメイドではなく既製品を買うことにした。ホルダー付きのベルトはリュシアンの身体には少し大きかったが、そこはトニーがうまく詰めてくれた。それと先ほど目をつけた小手だけ買って、ここでの買い物を終えた。戦いに行くわけではないので、鎧などは必要はない。 「すみません、ぼっちゃん。おやじが失礼なことを…」  店を出てから申し訳なさそうにピエールが言ったが、彼がトニーのことを親し気に思っているのは滲み出ていた。おそらく今まではずっと、会いたくても会えなかったのだろう。やっと無事を報告出来て、どこか嬉しそうだった。 「いい人だね、ピエール達の事、本当に心配してたんだよ」  ピエールがクリフに懐いている理由がなんとなくわかった。おじいちゃん子なんだな、きっと。思わず笑いながら答えると、ピエールが驚いたような顔でこちらを見ていた。 「え、なに?どうしたの」 「あ、いえ…、ぼっちゃんは、ドワーフに偏見がないんですね」  偏見?なんで…、もしかして差別とかあったりするの?  逆に驚いた顔をしたリュシアンに、ピエールは堪えるような笑みを浮かべた。 「いえ、人間より数が少ない種族を差別する風潮があるので、ちょっと意外で」  そういえばそんな記述もあったな、とリュシアンは思い出した。昔は、ドワーフもエルフも獣人もたくさんいたらしく、いわゆる亜人の国もいくつか存在したということだ。  もともとエルフと人族は、魔力を持たないドワーフや獣人を差別していたらしいけど……どうしょうもないね、ほんと。  さて、次は商業ギルドだ。個人店は当たりハズレがあるので、トニーの店のようにちゃんとした店を知らないなら、やっぱり商業ギルドのほうが間違いはないだろう。  リュシアンたちは、再び大通りのにぎやかな通りに出てきた。
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