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選民意識の塊のような男である。おそらくリュシアンたちが、自分にとって利益を与えるものではないと判断したのだろう。
庇うように前に立っているピエールに「大丈夫」と声をかけて、リュシアンはにっこりと営業スマイルを披露した。
「こんにちは、写生用の巻物を買いに来ました。お店の方へ行ってもいいですか?」
「あ?…、ああ。いや、…おい、勝手に…お前らっ」
落ち着いた態度で明確に目的を述べた利発そうな子供に、一瞬あっけにとられて頷いてしまったが、すぐにその身なりを確認して横柄に首を振った。
横をすり抜けていったリュシアンにぶつぶつ文句を言いながら追いかけていき、さらに近くにいたピエールにも絡んでいた。
まあ、いいけどね。商品さえ売ってもらえれば。さ、…早く用事を済まそう。
「巻物ですか?そちらになければお出ししますよ」
なにやら後ろでごちゃごちゃ言っている爪楊枝を放置して、並んでいる巻物を吟味するように見ていると、先ほど笑いかけてきた女性職員が親切に話しかけてきた。
おお、悪くなりかけた商業ギルドの印象が一気に回復する勢いだよ。
もう少し上級用の巻物はないかと質問すると、嫌な顔一つせず彼女はいくつか見本を持ってきた。
例の教会のお姉さんが持っていた革製の物もある。上級魔法になると通す魔力も多くなるのでこれくらいの物が必要になる。
でも、僕の場合はなあ……
使い捨てになるなら高級なものは必要ないんだけど、王都に行くなら上級魔法などの魔法陣を覚えられる可能性がある。そのためにも少し品質の良いものも用意しておきたい。
「おい、アンジェラ。時間の無駄だ、さっさと追い返せ。いつまで相手をしているのだ」
悩んでいると、神経質そうな声が上から降ってきた。この人まだいたの?
ピエールを見ると、イライラした顔でひたすら睨みつけている。どうやらチクチクと嫌味を言われていたらしい、飛び蹴りでもしそうな勢いである。
「ちょっとセザールさん、いい加減にしてください。こちらはお客様ですよ」
アンジェラと呼ばれた女性は、そんな男性職員に注意を促すが、どうやら彼の方が上司らしく態度が改まることはなかった。
めんどくさいなあ……この人暇なの?
それに比べてアンジェラは商人の鏡だね。子供であろうと丁寧な接客を貫いている。
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