商業ギルドの接客

4/5

3366人が本棚に入れています
本棚に追加
/757ページ
「じゃあ、この革製のを五本と、こちらの装飾のあるものを十本、あと無地のものを三十本ください」  思った以上に大量購入だったので、さすがに女性職員も驚いたような顔をしたが、すぐににっこり笑って「かしこまりました」とお辞儀をした。 「まてまてっ!なにがかしこまりましただ、なんの悪戯だ、坊主!ただじゃおかんぞ、警備員を呼んで来い」  アンジェラにもリュシアンにも無視されたあげく、ピエールとその横の小さな女の子にまでくすくすと笑われて、さすがのセザールも黙ってはいられなくなったらしい。いや…、もとから黙ってはいなかったけど。  けれど、リュシアンは騒音に構わず「手形でいいですか?」などと、アンジェラに聞いている。 「こうなったら私が…!」  なけなしの自尊心を傷つけられたことで、ついつい逆上してしまったようだ。カバンからなにやら出そうと下を向いたリュシアンの腕を、とっさに掴みあげてしまったのである。  さすがにしまった、と思ったらしくセザールは顔をしかめた。  しかし、本当に真っ青になるのはこの後であった。ギルド内にいた数人が、靴音を鳴らして一斉に二人を取り囲んだのだ。ギョッとして固まったセザールの手からひょいっと逃れたリュシアンは、もう一度女性職員の方へと向き直った。 「アンジェラさん、今日はありがとうございました。お代は、こちらでお願いしますね」  不測の状況にびっくりして瞬きしていたアンジェラは、受け取った手形を確認してさらに驚いたようにリュシアンの顔を見た。けれど、すぐに笑いを堪えるような顔になって「はい、ありがとうございました」と、上客にするような丁寧なお辞儀をしたのである。
/757ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3366人が本棚に入れています
本棚に追加