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ただ、私は愕然とその様子を見ていたわ。だって、声のかけようがないじゃない。
彼は、ただ何も言わずに、外を見てたわ。でも、不思議とその姿が苦しそうにしているように見えて、私ね、聞いたのよ。死にたいの? って。
彼はゆっくりこちらを見て言ったわ。「死にたい」そう芯の通った確かな声で。
「赤子って生まれたとき産声を上げるけれど、多分、俺はその頃から死にたいって泣いていた気がする」
彼は、淡々とそう言ったわ。死にたいなんていう人の声でも表情でもないの。まるで、呼吸をするように彼は言ったわ。そのときの彼は。
「独白っていうのは、役者が舞台の上で相手もいないまま一人で台詞を言うこと。死にたいだなんて誰かに軽々しく、言うものでもないだろう。
かといって、一人きりだったら、消化しきれない」
だから、彼はそのメモをあの本に挟んだのだと気づいたわ。その瞬間、なんて優しい人なのだろうって驚いたわ。
優しい、っていうのはあくまの私の個人的感性よ。例えば、誰かに「死にたい」だなんて打ち明けられたら、聞いた側は聞いた側で精神をすり減らすじゃない。かといって打ち明けなければ本人が磨り減ってしまう。だから彼は匿名と言う方法をとったの。
でも、それだと彼が自分から名乗りをあげた意味がよく分からないと思うでしょう。
彼はね、あまり自分の心情を打ち明けるのが得意じゃなかったの。苦しいなんて、誰にも言えない人だった。だから、口で誰にも助けなんて求められなかったのでしょうね。それでも、どうしたって気づいてほしかった。
そんな彼の目の前で私があれを見つけたものだから、きっと彼は反応したんでしょうね。いいえ、してしまったのかもしれない。
気づいてくれる人がいたと。
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